
2026年3月末時点で、自治体の標準化対象システムのうち約3割が、当初目標だった2025年度末までに移行を終えられない「特定移行支援システム」になりました。その移行先として位置づけられているのが、デジタル庁が整備するガバメントクラウドです。ニュースで名前を見かけても、自治体クラウドとの違いや、なぜコストが増えるという話が出ているのかまでは整理しにくいかもしれません。この記事では、ガバメントクラウドの仕組みと対象サービス、標準化との関係、移行状況と課題、そして業務システムやUI設計の観点までをまとめて解説します。
ガバメントクラウドの定義と、デジタル庁が一括で調達する仕組み
ガバメントクラウドの対象クラウドサービスと国産クラウドの採択状況
自治体システム標準化の20業務とガバメントクラウドの関係
ガバメントクラウドが目指す目的と、自治体・住民にとってのメリット
2026年時点の移行状況と特定移行支援システムの位置づけ
運用経費の増加や期限、ベンダーリソースなどガバメントクラウド移行の課題
標準化とクラウド移行を、業務改善とUI設計につなげるための視点
ガバメントクラウドとは、デジタル庁が整備する政府共通のクラウドサービスの利用環境です。各府省や地方公共団体が、それぞれサーバーや機器を調達して個別に運用するのではなく、共通の基盤の上でシステムを動かすことを目指しています。
デジタル庁はその目的を、迅速かつ柔軟で、セキュアでコスト効率の高いシステムを構築できるようにし、利便性の高い行政サービスをいち早く提供・改善していくことだと説明しています。つまりガバメントクラウドは、単なるサーバー置き場ではなく、行政システムの作り方そのものを変えるための土台という位置づけです。
ガバメントクラウドの大きな特徴は、契約の構造にあります。デジタル庁が技術要件を満たすクラウド事業者と契約して利用環境を一括で調達し、各府省や自治体はデジタル庁から利用環境の払い出しを受けて使います。
自治体から見ると、クラウド事業者と個別に交渉して契約するのではなく、国が用意した共通のルールと環境の上でシステムを構築する形になります。その上で動く業務アプリケーション、つまり標準準拠システムは、複数のアプリケーション事業者が提供します。基盤とアプリの事業者が分かれていることで、特定の事業者に依存しにくい構造を意図しています。
ガバメントクラウドで使われるクラウドサービスは、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度であるISMAPに登録されていることが前提です。そのうえで、デジタル庁が定める技術要件を満たす必要があります。令和5年度の調達では、305項目の技術要件が示されました。
要件には、高い水準のセキュリティに加えて、データセンターを国内に置くこと、契約から廃棄まで国が統制できること、ほかの事業者へ移行しやすいよう技術仕様が公開されていることなどが含まれます。個々の自治体がクラウド事業者のセキュリティを一から評価しなくてよい点は、ガバメントクラウドを使う実務上の利点のひとつです。

ガバメントクラウドとして使えるクラウドサービスは、デジタル庁の公募を経て決まります。2022年10月に令和4年度募集分として、海外大手の4サービスが対象に決まりました。
その後、2023年11月の令和5年度募集で、さくらインターネットの「さくらのクラウド」が、2025年度末までにすべての技術要件を満たすことを条件として採択されました。そして2026年3月27日、デジタル庁が全305項目の技術要件への適合を確認し、正式な対象サービスとなりました。国内事業者のクラウドサービスとしては初めての採択です。
クラウドサービス | 提供事業者 | 採択の経緯 |
|---|---|---|
Amazon Web Services | Amazon Web Services | 令和4年度募集で対象に決定 |
Google Cloud | 令和4年度募集で対象に決定 | |
Microsoft Azure | Microsoft | 令和4年度募集で対象に決定 |
Oracle Cloud Infrastructure | Oracle | 令和4年度募集で対象に決定 |
さくらのクラウド | さくらインターネット | 令和5年度に条件付き採択、2026年3月に全要件適合を確認 |
対象サービスは年度ごとの公募で追加される仕組みです。複数のクラウドサービスが並ぶことで、ガバメントクラウド全体として特定の事業者への過度な依存を避ける狙いがあります。一方で、自治体や事業者にとっては、どのクラウドを選び、複数の環境をどう運用するかという判断が新たに生まれます。
国産クラウドの採択は、データ主権や経済安全保障の観点からも注目されました。ただし、どのサービスを使うかはアプリケーション事業者の構成や自治体の方針によって変わるため、国産であることだけで選ぶものではありません。

ガバメントクラウドを語るうえで欠かせないのが、地方公共団体情報システムの標準化です。2021年に施行された標準化法にもとづき、自治体の基幹業務システムは国が定める標準仕様に準拠したシステムへ移行することになりました。
標準化の対象は、住民生活に直結する20の基幹業務です。代表的なものを分類すると、次のようになります。
分類 | 主な業務 |
|---|---|
住民記録関連 | 住民基本台帳、戸籍、戸籍の附票、印鑑登録、選挙人名簿管理 |
税関連 | 固定資産税、個人住民税、法人住民税、軽自動車税 |
福祉・保険関連 | 国民健康保険、国民年金、介護保険、後期高齢者医療、障害者福祉、生活保護、健康管理 |
子ども関連 | 児童手当、児童扶養手当、子ども・子育て支援、就学 |
これらの標準準拠システムを動かす基盤として想定されているのがガバメントクラウドです。標準化への対応は義務ですが、ガバメントクラウドの利用は標準化法上の努力義務とされています。そのため、標準化対象外の独自システムまで、すべてをガバメントクラウドへ移す必要はありません。
名前が似ている「自治体クラウド」は、自治体が自ら事業者を選んで調達し、単独または複数の自治体で共同利用する取り組みです。導入や運用の判断が各自治体に委ねられていたため、全国的な共通化には至りませんでした。
比較項目 | ガバメントクラウド | 自治体クラウド |
|---|---|---|
整備・調達の主体 | デジタル庁 | 各自治体または自治体グループ |
利用者 | 府省と地方公共団体 | 参加する自治体 |
契約の仕組み | デジタル庁が事業者と契約し利用環境を提供 | 自治体が事業者と直接契約 |
システムの仕様 | 国の標準仕様に準拠 | 自治体ごと、グループごとに異なる |
ガバメントクラウドは、国が定めた標準仕様のシステムを、国が調達した共通基盤で動かすという点で、自治体クラウドとは前提が大きく異なります。標準化とガバメントクラウドは、アプリと基盤の両面から行政システムをそろえる一体の施策だと捉えると理解しやすくなります。

ガバメントクラウドが目指すのは、自治体ごとに個別最適で作られてきたシステムを共通化し、コストと品質の両面で行政の情報システムを底上げすることです。主なメリットは次の4つに整理できます。
政府は、標準準拠システムへの移行完了後に、運用経費を2018年度比で少なくとも3割削減することを目標に掲げています。物理サーバーの調達や設置が不要になり、必要に応じてリソースを増減できるため、ピークに合わせた過剰な設備を抱えずに済むという考え方です。
ただし後述するように、移行直後の段階では運用経費が増えたという検証結果も出ています。削減効果はクラウドへ載せ替えただけでは自動的に生まれず、使い方の見直しとセットで初めて現実になるメリットです。
ISMAPと技術要件を満たした基盤を使うことで、自治体の規模にかかわらず一定以上のセキュリティ水準を確保できます。基盤部分のパッチ適用などはクラウド事業者が担うため、IT担当職員が少ない小規模自治体ほど恩恵を受けやすい構造です。
標準仕様によってデータ項目や連携の方式がそろうと、庁内の部署間や自治体間でのデータ連携がしやすくなります。制度改正への対応も標準仕様の改定として一括で進めやすくなり、自治体ごとに改修費用を負担する構造を変えていけます。
クラウドでは、複数のデータセンターにまたがる冗長構成やバックアップを取りやすくなります。庁舎内のサーバー室が被災すると業務が止まるというリスクを減らせる点も、ガバメントクラウドの利点です。

ガバメントクラウドと標準化の取り組みは、原則として2025年度末までに標準準拠システムへ移行することを目標に進められてきました。しかし2026年時点で、すべての自治体の移行は完了していません。
期限内の移行が難しいと具体化したシステムは、特定移行支援システムとして国の支援を受けながら2026年度以降に移行します。デジタル庁の公表では、2026年3月末時点で移行対象34,366システムのうち、10,013システム、割合にして29.1パーセントが特定移行支援システムに該当しました。
2025年12月末時点の集計では、特定移行支援システムを1つ以上持つ団体は1,788団体中935団体で、半数を超えていました。該当する主な理由は、メインフレームでの運用、個別開発システムであること、現行事業者が標準準拠システムを開発せず代替調達の見込みが立たないこと、事業者のリソースひっ迫などです。
ガバメントクラウドの課題としてよく取り上げられるのが、運用経費の増加です。デジタル庁がまとめた早期移行団体の検証事業報告書では、10団体の合計で運用経費が8.0パーセント増えたとされています。
増加の背景としては、クラウドへ接続する回線費用が新たに必要になったこと、セキュリティやバックアップなどの非機能要件の水準がそろって高くなったことが指摘されています。デジタル庁は2025年6月に運用経費に関する総合的な対策をとりまとめ、コスト最適化の考え方をガイドとして示しています。移行期間中は旧システムの維持費とクラウド利用料が重なる二重コストも生じやすく、予算確保の面でも負担になります。
全国の自治体が同じ時期に移行するため、標準準拠システムを提供する事業者の開発・移行リソースがひっ迫しました。現行ベンダーが標準準拠システムを提供しない、あるいは撤退するケースでは、規模や業務要件に合う代替製品を探すところから始めなければなりません。
ガバメントクラウドを使うには、庁内ネットワークからクラウドへの接続方式を設計する必要があります。複数のアプリ事業者が別々のクラウド環境を使う場合、自治体側には複数の環境を横断して障害や費用、責任分界を管理する体制が求められます。クラウド本体は国が用意しても、接続と運用の設計は自治体自身の仕事として残る点に注意が必要です。

ガバメントクラウドへの移行は、インフラの載せ替えとして語られがちです。しかし実際に職員と住民の体験を左右するのは、その上で動く業務システムと、業務の流れそのものです。ここでは、標準化とクラウド移行を業務改善につなげるための観点を整理します。
従来の自治体システムは、自治体ごとの業務に合わせて細かくカスタマイズされてきました。標準化では原則としてカスタマイズを行わず、標準仕様の機能で業務を回すことが求められます。
ここで必要になるのが、現行業務の棚卸しです。標準機能で代替できる手順、運用でカバーする手順、廃止できる手順を切り分けることで、移行を業務改善の機会に変えられます。業務システムと基幹システムの役割の違いを押さえておくと、どこまでを標準に寄せ、どこを周辺システムで補うかを判断しやすくなります。詳しくは業務システムと基幹システムの違いも参考にしてください。
標準準拠システムは機能要件がそろう一方で、画面の分かりやすさや入力のしやすさまで自動的に良くなるわけではありません。窓口での入力ミスや、操作を覚えるまでの研修負担は、移行後も現場の負担として残ります。
標準化の対象外となる周辺システムや、住民向けのオンライン申請画面では、UIの設計次第で職員と住民の手間が大きく変わります。社内システムの使いやすさを高める考え方は、社内システムのユーザビリティ改善で詳しく解説しています。
デジタル庁は、マネージドサービスの活用や運用の自動化など、クラウドの特性を生かしてシステムを変えていくモダン化を、コスト最適化の手段として示しています。単純な載せ替えで止めず、移行後も継続的に構成を見直していく前提で計画を立てることが、運用経費の削減目標に近づく道です。
基幹システムの刷新は、一度に全部を作り替えるより、優先度の高い領域から段階的に進める方がリスクを抑えられます。進め方の考え方は基幹システムリニューアルのポイントが参考になります。周辺システムの開発やDXの伴走を外部に相談する場合は、業務システムDXに強い開発会社の比較記事で、選び方の観点を確認できます。

ガバメントクラウドは、デジタル庁が一括で調達し、府省と自治体が共通で使うクラウド利用環境です。対象サービスはAWS、Google Cloud、Microsoft Azure、Oracle Cloud Infrastructure、さくらのクラウドの5つで、ISMAPと技術要件によってセキュリティ水準が担保されています。
自治体にとっては、20の基幹業務を標準準拠システムへ移行する標準化と一体の取り組みです。ガバメントクラウドの利用自体は努力義務ですが、標準準拠システムの基盤として広く使われています。
一方で、2026年3月末時点では対象システムの約3割が特定移行支援システムとなり、早期移行団体では運用経費の増加も確認されました。ガバメントクラウドの効果を引き出すには、インフラの載せ替えで終わらせず、業務の棚卸しやUIの改善、段階的なモダン化まで含めて取り組むことが重要です。
義務ではありません。標準準拠システムへの移行は標準化法で義務とされていますが、ガバメントクラウドの利用は努力義務と位置づけられています。標準化の対象外となる独自システムは、セキュリティや費用、事業継続の要件を踏まえてほかの環境を選ぶこともできます。
2026年10月時点で対象となっているのは、Amazon Web Services、Google Cloud、Microsoft Azure、Oracle Cloud Infrastructure、さくらのクラウドの5つです。さくらのクラウドは2023年に条件付きで採択され、2026年3月に全技術要件への適合が確認されました。対象サービスは年度ごとの公募で決まります。
期限内の移行が難しいと具体化したシステムは特定移行支援システムとして扱われ、国の支援を受けながら2026年度以降に移行を進めます。期限を過ぎたからといって標準化への対応が不要になるわけではないため、移行計画を見直して段階的に進める必要があります。
必ず下がるとは限りません。早期移行団体の検証では、10団体の合計で運用経費が8.0パーセント増えたと報告されています。政府は移行完了後に2018年度比で少なくとも3割の削減を目標としており、そのためにはクラウドの特性を生かしたモダン化や運用の見直しが欠かせません。
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2020年1月
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