
2027年の年末まで、残りは1年あまりです。長年SAP ERPで基幹業務を回してきた企業にとって、この期限は単なるソフトウェアの保守切れではなく、今後10年の業務とシステムの形を決める判断の締め切りでもあります。
一方で、延長保守や新しい移行オプションが用意され、「結局いつまで使えるのか」「何を選べばよいのか」が分かりにくくなっているのも事実です。この記事では、SAPの2027年問題の中身、保守期限を延ばす方法、放置した場合のリスク、取りうる選択肢と移行方式、着手の順序を解説します。
SAPの2027年問題で何が終わるのか
2030年までの延長保守と2033年までの移行オプションの位置づけ
サポート終了後もSAP ERPを使い続けた場合のリスク
現行維持、S/4HANA、他社ERP、SaaS型ERPという4つの選択肢の違い
ブラウンフィールドとグリーンフィールドなど移行方式の考え方
移行に向けて最初に着手すべきこと
SAPの2027年問題とは、SAP ERP 6.0(ECC 6.0)を含むSAP Business Suite 7の標準保守が2027年末で終了することにより、利用企業が後継システムへの移行か、別の手段での継続かを選ばなければならない問題のことです。結論として、2027年末を過ぎてもすぐにシステムが止まるわけではありませんが、無償の範囲での標準的な保守は受けられなくなります。
SAPの製品には、新しい機能追加や法改正への対応、セキュリティの修正などを含む標準保守(メインストリームメンテナンス)の期間が設定されています。SAP ERP 6.0のうち、エンハンスメントパッケージ6から8を適用したバージョンでは、この標準保守が2027年末までとされています。
もともとSAP ERPの標準保守は2025年末までの予定でした。その後、SAPが2020年に期限を2027年末まで延ばしたことで、問題の呼び名も「2025年問題」から「SAPの2027年問題」に変わりました。期限が延びただけで、問題そのものの性質は変わっていません。
SAP ERPは、会計、販売、購買、在庫、生産といった基幹業務を一つにまとめて管理するシステムです。国内でも大企業を中心に多くの企業が採用しており、長年の運用の中で自社の業務に合わせた追加開発(アドオン)を積み重ねてきたケースが少なくありません。
後継製品のS/4HANAはデータベースやデータ構造が大きく変わっているため、単純なバージョンアップでは移行できません。アドオンの見直しやデータの移行、業務プロセスの再設計を伴う大規模なプロジェクトになりやすいことが、この問題を経営課題にしている理由です。SAPとERPの基本的な関係については、SAPとは何か、ERPとの関係や導入メリットで解説しています。
時期 | 内容 |
|---|---|
2025年末 | エンハンスメントパッケージ5以前のSAP ERP 6.0の標準保守が終了 |
2027年末 | エンハンスメントパッケージ6から8のSAP ERP 6.0の標準保守が終了 |
2030年末 | 有償の延長保守を契約した場合の保守期限 |
2031年から2033年 | 大規模な移行を進める企業向けの移行オプションで利用できる期間 |

2027年末以降もSAP ERPを使い続ける方法は、有償の延長保守、2033年までの移行オプション、第三者保守の主に三つです。ただし、いずれも移行までの時間を確保するための手段であり、恒久的な解決策ではない点を押さえておく必要があります。
SAPは、エンハンスメントパッケージ6以上を適用したSAP ERP 6.0を対象に、2028年から2030年末までの延長保守を有償で提供しています。通常の保守料に一定の料率が上乗せされる形です。
延長保守を使えば、2027年末から3年間の猶予が生まれます。移行プロジェクトの準備が間に合わない企業にとっては現実的な選択肢ですが、保守コストが上がる期間が続くことは理解しておきましょう。
SAPは2025年2月、大規模で複雑なオンプレミス環境を持ち、2030年末までに移行を終えるのが難しい企業に向けて、SAP ERP, private edition, transition optionという新しい提供形態を発表しました。2028年から購入でき、2031年から2033年までの期間に利用できる位置づけです。
これはRISE with SAPによるクラウド移行を前提とした仕組みで、すべての企業が対象になるわけではありません。多数のSAP ERPシステムを抱える大企業が、計画的に移行を進めるための追加の猶予と考えるのが適切です。
メーカー以外の保守ベンダーが提供する第三者保守を利用して、現行のSAP ERPを使い続ける方法もあります。保守費用を抑えられる可能性がある一方で、メーカーからの新しい修正プログラムや法改正対応は受けられなくなる点に注意が必要です。
第三者保守は、移行先を決めるまでの時間を確保する手段や、近い将来に別のシステムへ切り替える前提での延命策として検討されることが多い選択肢です。

標準保守が終わった後も何も手を打たずにSAP ERPを使い続けると、セキュリティ、法令対応、運用体制、事業の変化への追従という四つの面でリスクが高まります。中でも影響が大きいのは、セキュリティと法令対応の二つです。
保守が受けられなくなると、新たに見つかった脆弱性への修正が提供されなくなります。基幹システムには取引先や財務、人事といった重要な情報が集まっているため、脆弱性を放置することの影響は小さくありません。
税率の変更や帳票の要件変更など、法令に関わる変更への対応も、保守の中で提供されてきたものの一つです。保守がなければ、こうした変更を自社で個別に手当てしなければならず、対応漏れのリスクと費用が増えます。
古い基盤の運用や改修を担える技術者は、年々確保しにくくなっていきます。ERPに詳しい人材やコンサルタントの多くが移行プロジェクトに集中すると、現行システムの障害対応や改修を頼める先も限られてきます。
経済産業省が「2025年の崖」として警鐘を鳴らした既存システムの老朽化・ブラックボックス化の問題は、SAPの2027年問題とも重なります。移行を先送りするほど、人材の確保は難しくなると考えたほうがよいでしょう。
新しい機能が追加されない古いシステムのままでは、データ活用やAIの組み込み、クラウドサービスとの連携といった変化に対応しにくくなります。システムの制約が業務の改善を妨げる状態が長く続くと、競争力そのものに影響します。

SAPの2027年問題への選択肢は、現行システムの維持、SAP S/4HANAへの移行、他社のオンプレミス型ERPへの乗り換え、SaaS型ERPへの移行の四つに大きく分けられます。どれが正解かは企業によって異なり、業務の独自性、システムの規模、移行にかけられる時間と体制によって決まります。
選択肢 | 概要 | 向いている企業 | 注意点 |
|---|---|---|---|
現行維持 | 延長保守や第三者保守で使い続ける | 移行の準備に時間が必要な企業 | 恒久策ではなく、保守費用や人材の課題が残る |
S/4HANAへ移行 | 後継ERPに移る | これまでの業務資産を生かしたい企業 | アドオンやデータの見直しを伴う大規模な取り組みになりやすい |
他社のオンプレミス型ERP | 別メーカーのERPを自社環境で使う | 自社の業務に合う製品が他にある企業 | 実質的に新規導入となり、業務の作り直しが必要 |
SaaS型ERP | クラウドで提供されるERPを使う | 標準機能に業務を合わせられる企業 | 独自の業務をどこまで標準に寄せられるかが鍵 |
近年は、一つの巨大なERPですべてを賄うのではなく、必要な機能を組み合わせて構成する考え方も広がっています。この考え方についてはコンポーザブルERPとはで詳しく解説しています。
S/4HANAへ移行する場合も、進め方は一つではありません。代表的なのは次の三つの方式です。
ブラウンフィールドは、現行のシステムの設定やデータ、アドオンを引き継ぎながら変換する方式です。現場への影響を抑えやすい反面、これまでの複雑な作り込みもそのまま持ち込むことになります。
グリーンフィールドは、S/4HANAを新規に構築し、業務プロセスを標準機能に合わせて組み直す方式です。業務を見直す機会になりますが、時間と費用、現場の負担は大きくなります。
ブルーフィールドは、両者の中間にあたる方式です。必要なデータや設定を選んで移行し、引き継ぐものと作り直すものを切り分けられる点が特徴で、専用のツールを使って進めることが一般的です。
選択肢を比べるときは、まず自社の業務のうち、どこが他社との違いを生む独自の業務で、どこが標準化できる業務かを切り分けることが出発点になります。標準化できる部分が多ければ、SaaS型ERPやグリーンフィールドで標準に寄せる道が取りやすくなります。
あわせて、移行プロジェクトを担う社内の体制と外部パートナーを確保できるかも重要な判断材料です。ERPに残す機能と、周辺の業務システムに切り出す機能の線引きも、この段階で考えておくと後の設計が楽になります。

SAP移行を成功させるために最初に行うべきことは、製品や方式を選ぶことではなく、現行の業務とシステムの棚卸しです。何を残し、何を標準に寄せ、何を捨てるのかが見えて初めて、自社に合う選択肢と移行方式が決まります。
まず、現行のERPで動いている業務と、追加開発されたアドオンを一覧にします。アドオンごとに、今も使われているか、どの業務で必要なのか、標準機能で代替できないかを確認していきます。
長年の運用の中で、使われなくなった帳票や画面が残っていることは珍しくありません。棚卸しの段階で不要なものを減らしておくほど、移行の範囲とリスクを小さくできます。
次に、業務をシステムの標準機能に合わせる、いわゆるFit to Standardの方針を決めます。どこまで標準に寄せるかによって、移行方式も費用も大きく変わります。
標準に寄せる判断は、システム部門だけでは完結しません。業務の手順が変わる現場の部門を巻き込み、変えてよい業務と変えられない業務を合意しておくことが欠かせません。
古いシステムには、重複した取引先や品目のマスタ、使われていないデータが蓄積していることが多くあります。移行前にデータを整理し、品質を高めておくことは、移行後のデータ活用にも直結します。
見落とされやすいのが、移行後に現場の担当者が日々触れる画面の体験です。標準機能に寄せるほど、これまで慣れていた画面や手順が変わり、操作に迷う、入力の手間が増える、といった声が出やすくなります。
FAKEでは、業務システムのUI/UXをデザインドリブン®で設計し、現場に入り込むFDE型の支援で使われ方を確かめながら定着まで伴走することを重視しています。基幹システムの刷新を現場の負担を抑えて進める考え方は、デザイン駆動で基幹システム刷新の期間を短縮するアプローチでも紹介しています。
移行や周辺システムの開発を外部に相談する段階に入ったら、業務システム・DXに強い開発会社の選び方で比較の観点を整理しておくと、パートナー選びがスムーズになります。

SAPの2027年問題は、SAP ERP 6.0の標準保守が2027年末で終了することで、利用企業が今後の基幹システムの形を選ばなければならない問題です。有償の延長保守で2030年末まで、大規模な企業向けの移行オプションでは2033年まで使い続ける道もありますが、いずれも移行のための時間を確保する手段にすぎません。
保守が切れた状態で使い続けると、セキュリティや法令対応、人材確保の面でリスクが高まります。選択肢は現行維持、SAP S/4HANA、他社ERP、SaaS型ERPの四つで、S/4HANAへ移る場合もブラウンフィールド、グリーンフィールド、ブルーフィールドといった方式の違いがあります。
どの道を選ぶにしても、出発点は現行の業務とアドオンの棚卸し、標準に寄せる範囲の合意、データの整理です。SAPの2027年問題を、業務と現場の使い勝手を見直す機会として捉えることが、移行を成果につなげる近道になります。
2027年末を過ぎても、SAP ERPが突然動かなくなるわけではありません。終了するのは標準保守であり、システム自体は動き続けます。
ただし、延長保守などを契約しない場合、新しい修正プログラムや法改正対応が受けられなくなります。リスクを抑えて使い続けるには、延長保守や第三者保守などの手当てが必要です。
延長保守は、エンハンスメントパッケージ6以上を適用したSAP ERP 6.0が対象です。それより古いバージョンを使っている場合は、まずバージョンの確認が必要になります。
また、2033年までの移行オプションは、大規模で複雑な環境を持ち、RISE with SAPによる移行を進める企業向けの位置づけです。自社が対象になるかは、契約先のベンダーやパートナーに確認するのが確実です。
できます。他社のオンプレミス型ERPや、クラウドで提供されるSaaS型ERPへの乗り換えも選択肢の一つです。
その場合は実質的に新しいERPの導入になるため、データの移行や業務の再設計、周辺システムとの連携の見直しが必要です。自社の業務の独自性と、標準機能に合わせられる範囲を見極めて判断しましょう。
移行の検討は、できるだけ早く始めるべきです。棚卸しや方針の決定、パートナーの選定、設計と構築、データ移行、テストと、移行には多くの工程があり、規模によっては数年単位の取り組みになります。
期限が近づくほど、経験のある人材やパートナーの確保も難しくなります。延長保守を前提にする場合でも、その期間を移行の準備に充てる計画を早めに立てておくことが大切です。
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株式会社FAKE
住所
〒150-6090 東京都渋谷区恵比寿4丁目20-4 Portal Ebisu H1
代表取締役
高橋 才将
設立
2020年1月
事業
DXコンサル、新規事業コンサル、システム開発、UIUXデザイン