
ユニバーサルデザインの7原則を読んだあとで、では自分のプロダクトの何を直せばよいのかがわからない。この詰まり方は珍しくありません。7原則はもともと建築や工業製品を想定して書かれた文章で、画面の設計判断にそのまま当てはめられる形にはなっていないからです。
この記事では、7原則をUXの設計プロセスで使える判断基準に翻訳する手順を扱います。一時的な制約や状況による制約まで対象を広げる考え方、合否を決める数値基準、そして継続的に回すための組み込み方までを順に整理していきます。
ユニバーサルデザインとUXが実務で別々に扱われてきた構造的な理由
7原則を画面やフローの設計判断に翻訳するときの具体的な読み替え方
恒久的な制約だけでなく一時的・状況的な制約まで対象を広げる考え方
ユニバーサルデザインのUX品質を判断するための数値基準と参照規格
自動チェック、社内検証、当事者テストの役割分担と実施頻度の目安
デザインシステムに基準を埋め込んで作業量を減らす進め方
ユニバーサルデザインは1985年に米国で提唱された考え方で、提唱者はノースカロライナ州立大学の教授で建築家のロナルド・メイスです。7原則そのものは、同大学のCenter for Universal Designが1997年にVersion 2.0としてまとめました。文面は建築物や日用品を念頭に置いており、公平性、柔軟性、単純性、情報の認知しやすさ、エラーへの許容、身体的負担の少なさ、接近と利用に適した大きさと空間という7つで構成されています。
一方でUXは、体験そのものを対象にします。誰が、どういう状況で、何を達成しようとしていて、その過程でどこが詰まるのか。UXの議論は行為とプロセスの言葉で進むため、静的な原則の言葉と噛み合いにくい構造があります。
この噛み合わなさが、実務では2つの分断として現れます。1つは対象の分断です。ユニバーサルデザインの解説記事は自動ドアやシャンプー容器のギザギザといった物理的な事例で語られることが多く、画面やフローの話に接続されないまま終わります。
もう1つは工程の分断です。ユニバーサルデザインが品質保証の最後に行うチェック項目として扱われると、設計をやり直せない段階で問題が見つかることになります。UXの観点からすると、それは検証ではなく手戻りです。
そのため、ユニバーサルデザインとUXを接続する作業は、原則を暗記することではありません。7原則の各項目を、設計の途中で下せる判断の形に翻訳することが実質的な作業になります。ユニバーサルデザインの基本的な考え方と身近な事例についてはユニバーサルデザインとは?身の回りで出会う具体例を紹介で整理しています。

翻訳の要領は、原則を「何を満たすか」ではなく「何を用意するか」に書き換えることです。以下は画面とフローを対象にした読み替えです。
公平な利用は、同じ機能への到達経路を利用者の特性ごとに分けないことを意味します。マウス利用者だけが押せるボタン、視覚でしか伝えていないステータス、音声でしか届かない通知は、この原則に反します。
柔軟性は、入力手段と出力手段を複数用意することに置き換わります。キーボードとポインタ、音声とテキスト、視覚と読み上げ。どれか一本に依存した導線があれば、そこが排除の発生点です。
単純で直感的な利用は、説明なしで次の一手がわかる状態を指します。ラベルの言葉を機能名ではなく利用者の目的の言葉にするだけで、この原則の充足度は大きく動きます。
情報の認知しやすさは、情報を必ず2つ以上の手がかりで伝えることに翻訳できます。色だけでエラーを示さない、アイコンだけで意味を伝えない、形と文言を併用する。
エラーへの許容は、取り消せる、やり直せる、失っても復元できる状態の確保です。破壊的な操作の前に確認を挟み、入力途中の内容を保持する設計がここに当たります。
身体的負担の少なさは、操作の回数と精度の要求を下げることです。ターゲットを十分な大きさにし、連続したドラッグ操作に代替手段を用意します。
接近と利用のための大きさと空間は、拡大表示や片手操作でもレイアウトが破綻しないことに対応します。200%に拡大したときに横スクロールが発生しないかが、実務での確認点になります。
この7つを設計レビューのチェック項目としてそのまま使うと、ユニバーサルデザインの議論がUXの議論と同じ会議体に乗ります。UXの担当者にとっても、原則の名前を覚える必要がなく、用意すべきものの一覧としてそのまま使える形になります。
翻訳の過程で気づくのは、7原則の多くが特別な配慮ではなく設計の基本と重なっていることです。ユニバーサルデザインをUXに接続する作業は、新しい要件を足すというより、すでにある設計判断の抜けを見つける作業に近いといえます。

ユニバーサルデザインをUXに定着させるうえで、最も効く視点の転換があります。対象を恒久的な障害のある人に限定せず、一時的な制約と状況による制約まで含めることです。
腕を骨折していれば片手しか使えません。抱っこ紐で子どもを抱えていても片手です。満員電車でも片手です。この3つは原因が違うだけで、設計上は同じ「片手で操作する利用者」として現れます。
同じ構造は他の感覚にも当てはまります。聴覚に障害がある人、耳の炎症で一時的に聞こえにくい人、騒がしい場所にいる人。この3者はいずれも音声だけの情報を受け取れません。だから字幕は特定の誰かのための機能ではなく、全員が場面によって必要とする機能になります。
この捉え方をすると、UXの検討における社内の合意形成が変わります。対応の理由を少数への配慮として説明すると優先度が下がりますが、全員が場面によって該当すると説明すると議題の性質が変わります。実際、日本の総人口に占める65歳以上の割合は、総務省統計局が2025年9月14日に公表した数値で29.4%に達しています。加齢に伴う見えにくさや操作のしづらさは、すでに多数派の課題です。
規模の数字も押さえておくと判断しやすくなります。WHOは2023年3月のファクトシートで、世界人口の16%にあたる約13億人が重度の障害を有するとしています。国内では、カラーユニバーサルデザイン機構が色覚特性を持つ人を男性の約20人に1人、女性の約500人に1人、合計で300万人以上としています。
そのうえで、想定する制約を具体的なシナリオとして書き出しておくと、UXの検討に乗ります。誰がどの状況で何を達成しようとしているかという形式は、ペルソナやユーザーシナリオと同じ器に入ります。ユニバーサルデザインの検討を別枠にせず、既存のUXプロセスの中で扱えるようにするための実務的な工夫です。当事者を巻き込む設計手法についてはインクルーシブデザインとは?UI/UXデザイナーが考える体験向上についてが参考になります。

設計判断に翻訳したあとに必要なのが、合否を決める基準です。定性的な議論だけでは、どこまでやれば十分なのかが決まらず、レビューのたびに結論が変わります。
参照する国際基準はWCAGです。WCAG 2.2は2023年10月5日にW3C勧告として公開され、2024年12月12日付で改訂版が再公開されました。構造は知覚可能、操作可能、理解可能、堅牢という4原則の下に達成基準が並ぶ形で、2.1から9つの達成基準が追加されています。追加分にはフォーカスの見え方、ドラッグ操作の代替手段、一貫したヘルプ、認証のしやすさなどが含まれます。
国内規格はJIS X 8341-3:2016です。正式名称は高齢者・障害者等配慮設計指針のうち、情報通信における機器、ソフトウェア及びサービスの第3部にあたります。ISO/IEC 40500:2012、すなわちWCAG 2.0の一致規格で、達成基準はレベルA、AA、AAAの3段階です。国内案件ではレベルAAを到達目標に置く運用が一般的です。
実務ですぐ使える数値としては、テキストのコントラスト比4.5対1以上、大きな文字は3対1以上、ポインタ操作のターゲットサイズ24×24 CSSピクセル以上があります。それぞれ達成基準1.4.3と2.5.8にあたり、解釈の幅が小さいため合否の線として機能します。
現実の充足度を知っておくと、UX改善の目標設定が現実的になります。WebAIMが公開しているWebAIM Millionの2026年版では、調査対象ホームページの95.9%にWCAG 2の不適合が検出され、1ページあたりの平均エラー数は56.1件でした。最頻のエラーは低コントラストテキストが83.9%、画像の代替テキスト欠落が53.1%、フォーム入力ラベルの欠落が51%で、上位6項目で全エラーの96%を占めています。
法制度の側も基準の一部です。改正障害者差別解消法により、事業者による合理的配慮の提供は2024年4月1日から義務になりました。EUの欧州アクセシビリティ法は2025年6月28日から適用が始まり、域内向けのECサイトなどが対象です。国内向けと越境向けで参照する基準が変わる点は、要件定義の段階で確認しておく必要があります。

最後は、翻訳した判断基準と数値基準を工程に埋め込む段階です。ここを設計しないと、UXの担当者の熱量に依存した属人的な取り組みで終わります。
入口はデザインシステムです。コンポーネント側でコントラスト比、ターゲットサイズ、フォーカスの見え方を担保しておけば、画面ごとに同じ検査を繰り返す必要がなくなります。ユニバーサルデザインの要件を部品に埋め込むほど、UXの担当者が個別に判断する量が減ります。設計の考え方はアトミックデザインとは?基礎とUI設計への応用について現役デザイナーが解説で扱っています。
UXの検証は3段階に分けます。第1段階は自動チェックで、機械判定できる項目をリリース前に落とします。第2段階は社内での手動検証で、キーボードだけの操作、読み上げ、200%拡大での崩れを確認します。第3段階は当事者によるテストで、主要な導線が変わったタイミングに絞って実施します。
この分担にする理由は、工数の配分にあります。自動チェックで潰せる範囲は先ほどの数字が示すとおり広く、そこを機械に任せることで、判断が必要な部分に人の時間を回せます。
UXの指標は3つに絞ると運用が続きます。自動チェックで検出されたエラー件数、レベルAA達成基準の充足率、当事者テストでのタスク完了率。件数と率だけなので、定例で追いやすい形です。
体制づくりの参考として、デジタル庁が2022年12月12日に初版を公開したウェブアクセシビリティ導入ガイドブックがあります。方針の策定から始めて体制と手順を整える構成になっており、社内の進め方を組み立てるときの土台として使えます。なお、AIによる自動化をどこまで使えるかについてはユニバーサルデザインとAI|自動化の限界と実装基準を具体的に解説で詳しく扱っています。

ユニバーサルデザインとUXがつながらない原因は、7原則が建築や工業製品の言葉で書かれていることと、対応が工程の最後に置かれがちなことの2点にありました。どちらも、原則を設計途中で下せる判断の形に翻訳することで解消できます。
翻訳の要領は、原則を満たすべき状態ではなく用意すべきものとして読み替えることです。到達経路を分けない、入力と出力の手段を複数持つ、情報を2つ以上の手がかりで伝える、取り消せるようにする。この形にすると、設計レビューのチェック項目として機能します。
対象範囲は、一時的な制約と状況的な制約まで広げます。片手しか使えない理由が骨折でも抱っこでも満員電車でも、設計上は同じ利用者として現れる。この捉え方が、社内での優先度の議論を変えます。
合否の判断には数値基準を置きます。コントラスト比4.5対1、ターゲットサイズ24×24 CSSピクセルといったWCAG 2.2の達成基準と、JIS X 8341-3:2016のレベルAAが出発点です。そのうえでデザインシステムに基準を埋め込み、自動チェック、社内検証、当事者テストの3段階で回す。ここまで組み上げて初めて、ユニバーサルデザインがUXの日常業務になります。
アクセシビリティは到達可能であるかどうかの性質を指し、WCAGのような達成基準で測ります。ユニバーサルデザインは、はじめから多くの人が使える形で作るという設計思想です。インクルーシブデザインは、排除されてきた人を設計プロセスに参加させる進め方を指し、対象ではなく手続きに重心があります。
7原則は1997年に建築物や日用品を想定して書かれた文章で、画面やフローの判断単位に合わせた記述になっていないためです。到達経路を分けない、入力手段を複数用意する、情報を2つ以上の手がかりで伝えるといった形に読み替えて初めて、設計レビューの項目として使えます。
自動チェックで検出できる項目からです。WebAIM Millionの2026年版では上位6項目が全エラーの96%を占めており、その大半が低コントラストや代替テキストの欠落といった機械判定できる内容でした。ここを先に潰すと、限られた検証工数を判断が必要な箇所に回せます。
リリースごとに実施するのは現実的ではないため、主要な導線が変わったタイミングに絞るのが一般的です。日常的な確認は自動チェックと社内での手動検証で担保し、設計の前提が変わる変更のときに当事者テストを挟む形にすると運用が続きます。
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設立
2020年1月
事業
DXコンサル、新規事業コンサル、システム開発、UIUXデザイン